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事業者の労務管理

労務管理の必要性

平成24年4月に改正された介護保険法では、事業者に対して労働基準法などの遵守を求める条文が盛り込まれています。これにより、労働基準法に違反した介護事業者で、罰金刑を受けたものなどに対し、都道府県等は指定を取り消すことができることになります。

したがって、介護事業者としては、労働基準法を守る形で介護職員と雇用契約書を締結し、事業者の指揮命令下において、さらに研修や健康管理なども含めて職員をしっかり管理する必要があります。

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就業規則

作成しなければならない事業者

常時10人以上の従業員を使用する場合、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければなりません(労基法89条)。短時間勤務のパートでも「常時10人の以上の従業員」に含まれるため注意が必要です。

 

常勤か非常勤かの区別ではダメ

介護事業者では指定基準(人員基準)により、週の所定労働時間が32時間以上を「常勤」、それ以下を「非常勤」と扱っています。この考え方は、介護保険の運営基準に基づくものです。このため、就業規則でも、「常勤」「非常勤」という区分で定めをしている例が見受けられます。

しかし、一般的に、労働基準法等で想定されている従業員の雇用管理上の区分は以下のとおりになっています。

(1)無期契約でフルタイム勤務(常勤)=正社員

(2)有期契約でフルタイム勤務(常勤)=契約社員

(3)有期契約でパートタイム勤務(非常勤)=パートタイマー

昇給や賞与、退職金、教育訓練の機会、福利厚生等の付与については、労働契約法やパートタイム労働法により、労務管理の状況や職務内容により、正社員と均衡処遇を求められています。そうすると、「常勤」と「非常勤」という人員基準上の区分で就業規則を作ってしまうと、正社員も契約社員も同じ処遇にすべきことになってしまいます。そのようなことになると、例えば、正社員だけに適用するつもりだった退職金を、契約社員から請求されるといった事態が起こりかねません。そこで、就業規則を作るにあたっては、正社員と非正社員としての雇用管理区分の違いを明確に分ける事が必要です。

このように、就業規則は雇用形態に応じて複数策定することが好ましいといえます。

 

短時間正社員制度の利用

これまで主として想定されてきた従業員の雇用管理上の区分は、「常勤か非常勤かの区別ではダメ」の中に記載した(1)~(3)のとおりです。しかし、フルタイム正社員と同等もしくはそれ以上の意欲や能力があるものの、長い時間働けない人材(育児・介護等と仕事を両立したい従業員、定年後も働き続けたい高齢者、キャリアアップをめざすパートタイム従業員等)もいます。こういった人材を積極的に活用するために、業務に対する責任や賞与、退職金などの条件は正社員として扱いつつ、労働時間がフルタイムよりも短い勤務形態とすることも考えられます。これが、「短時間正社員」です。

今後も多様な働き方を求める従業員は増えていくと考えられますので、「短時間正社員」制度の活用を可能にする就業規則の作成を検討することも有益です。

 

常時10人未満の事業場は週44時間の特例を検討する

いわゆる「小規模デイサービス」は一般的に、10人未満で運営をしている事業所が多数です。労働基準法では、特定の事業につき、常時10人未満の事業場の週の法定労働時間は、「週40時間」でなく、「週44時間」とする事を認めています。常時10人未満の事業場の場合、この特例を活用することでシフト組が楽になります。また残業代の抑制効果もあります。

さらに、この特例は、「1か月単位の変形労働時間制」や「フレックスタイム制」を導入する事業所で重ねて利用することができるため、さらに柔軟にシフトを組むことができます。

 

管理者を労働基準法の管理監督者とする場合

管理者が従業員である場合には、労働基準法の「管理監督者」として、残業代等の適用除外にしていることがあります。しかし、裁判例を検討すると、「管理監督者」と認められるには、以下のとおりの要件が必要とされています。

(1)会社の経営方針や重要事項の決定に参画し、労務管理上の指揮監督権限を有していること

(2)出退勤等の勤務時間について裁量を有していること

(3)賃金等について一般の従業員よりもふさわしい待遇がなされていること

これらの要件を満たす実態がない場合には、「管理監督者」と主張しても、裁判では認められないことも珍しくありません。その結果、多額の残業代を支払わなくてはならなくなることもあります。

そこで、管理者を「管理監督者」とする場合には、

①経営方針に関する会議に参加して、意見を積極的に言ってもらう、議事録などの署名を求める。

②シフトを作ってもらったり、従業員の面接に参加してもらうなど、労務管理にも参加してもらう。

③残業代を支払わない分、処遇を篤くする。

など、勤務の実態が「管理監督者」にふさわしいものとするように注意してください。

なお、「管理監督者」に対して残業代の支払いは不要ですが、深夜割増賃金の支払いは必要です。深夜割増賃金の支払いを忘れないように注意しましょう。

 

送迎をおこなう場合や訪問介護の取扱い

従業員に送迎を行わせたり、訪問介護を行わせる場合には、交通事故の予防と万が一事故が発生してしまった場合の対応が大切になります。

運転の状況や、事故が起きた場合の場所や状況を把握するため、車両にはタイムレコーダーをつけたり、カーナビでのルート記録をするなどしてください。

また、送迎中には転倒等の事故も起きやすいので、運転役と介助役の2名が必要となります。

従業員の車両の持ち込みを認める場合には、任意保険証券の提出を義務付けるなどして、保険がついていることを予め確認する必要があります。

 

訪問介護の場合には、移動時間の扱いに注意

訪問介護の場合、移動時間も労働時間としてカウントするのが通常です。

ただし、移動時間中に休憩をしてもらうケースでは、どこまでを労働時間として扱うか、判断が困難になります。

トラブルの未然に回避の観点と、労基署の指導を受けないためにも、移動時間中の休憩時間をどのように取り扱うのか、予め就業規則等により明確化しておく事が必要になります。

 

高齢者を活用できる制度について

就業規則等で65歳未満の定年の定めをしている場合、雇用主は高年齢者雇用確保のために、①当該定年の引上げ、②継続雇用制度の導入、③当該定年の定めの廃止、のいずれかの措置をとる必要があります(高齢者等の雇用の安定等に関する法律9条1項)。

実務上は、②継続雇用制度を導入している会社が多くなっています。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

労働時間が長時間となっている場合や深夜労働が当たり前になっている場合には定額残業代制度の導入を検討しましょう

労働基準法上、(1)1か月の合計が60時間までの時間外労働および深夜労働については通常の労働時間の賃金の2割5分以上、(2)1か月の合計が60時間を超えた時間外労働が行われた場合には60時間を超える労働について通常の労働時間の賃金5割以上、(3)休日労働に対しては通常の労働日の賃金の3割5分以上の割増賃金の支払が必要です。

事業者としては、基本給に残業代を含めて支払っていると考えていたり、定額の手当として残業代を支払っていると考えていたにもかかわらず、裁判で争われた場合には認められなかったという場合も少なくありません。そこで、残業代を定額で支払うことが認められる場合がどのような場合か、よく検討して定額残業代制度を導入する必要があります。

詳しくは、こちらをご覧ください。

 

補助金・助成金の情報を知っておく

介護業には、様々な補助金・助成金制度があります。

制度が複雑になっているため、詳しくは、社労士に相談してください。

当事務所では、他士業との連携も行っております。

 

従業員個人に対する賠償

従業員のミスで事業者が損害を負ってしまったというときには、従業員に対して賠償の請求をしていきたいということがあるかもしれません。

この場合、雇用契約の労務提供義務や付随義務に違反したとして従業員に対し債務不履行に基づく損害賠償請求や、不法行為に基づく損害賠償請求が可能な場合もあります。また、雇用主が使用者責任(民法715条1項)に基づき第三者に生じた損害を賠償した場合には、従業員に対しその分の支払いを求めること(これを、「求償権の行使」といいます。)も可能です(民法715条3項)。しかし、従業員個人に対する賠償追求は以下のとおりの問題があります。

 

損害賠償請求権の行使が制限される場合

相対的に弱い立場にある従業員を保護する趣旨から、雇用主の従業員に対する損害賠償請求の行使態様について、法律上一定の制限がなされています。

まず、雇用主と従業員との間で、あらかじめ「○○の行為があった場合には××円の損害賠償金を支払う」などと決めておく、賠償額の予定契約はできません(労働基準法16条)。

また、損害額を賃金から相殺することも原則としてできません(全額払いの原則-労働基準法24条1項)。

 

従業員の責任が制限される場合

実務上、雇用主は従業員を使って利益を得ているのだから、従業員のミスによって損害が発生した場合も雇用主が一定限度責任を負い、必ずしも従業員が全額の賠償をしなくてもいい場合があると考えられています。

では、どのような場合に従業員の責任が制限されるのでしょうか。

最高裁昭和51年7月8日判決を踏まえると、従業員の責任制限を判断するためには、①従業員の帰責性(故意・過失の有無・程度)、②雇用主側の管理体制(指示内容の適否、保険加入による事故予防、リスク分散の有無)、③従業員の置かれている状況、等が考慮されていると考えられています。

上記の基準からすると、誤嚥や転倒による事故のような場合、多くは故意ではなく、過失で発生していることから、従業員の賠償責任を追求することは制限される方向に働きやすいと思われます。したがって、雇用主としては、保険の加入等によってリスクを分散させる必要があります。



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