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その他の事故で事業者の過失の有無が問題となった裁判例

その他の場合の介護事故について

介護事故は、代表的な転倒事故、誤嚥事故の他にも、様々な形で発生し、それらも裁判で争われることがあります。この場合、転倒事故等の場合と同様、事業者の予見可能性、結果回避義務が主に問題となりますが、具体的な予見の対象となる事故内容や結果回避義務の内容が、一概にはいえないため、個々に判断せざるを得ないといえます。

転倒・転落事故について事故様態が争われた裁判例はこちら
誤嚥事故で事業者側の過失の有無が争われた裁判例についてはこちら
介護事故と死亡との因果関係が争われた裁判例はこちら

 

入浴事故に関する裁判例(岡山地判平成22年10月25日)

【事案の概要】
被告の経営する老人保健施設に入所していた原告らの亡父C(以下「C」という。)が、同施設内の浴室に入り込み、自ら給湯栓を調整して湯を満たした浴槽内で死亡した事案です。

【裁判所の判断】
裁判所は、徘徊傾向のあるCが浴室に立ち入ること及びその危険性(転倒による骨折、温度変化による血圧の上昇、火傷や溺死の可能性)を事業者は予見し得たにもかかわらず、この危険を防止するための具体的な措置として浴室の施錠及び脱衣所の施錠を怠ったとして、事業者の施設管理義務の違反があるとしました

入浴事故に関して事業者が責任を問われないために

浴室などは滑りやすく、不安定な体勢をとるため、転倒の危険が一層高まります。また、窒息事故が発生する危険もあるため、利用者の見守りをより十分に行う必要があるでしょう。また、利用者が勝手に浴室に立ち入り事故を発生させる危険を予防すべく、浴室や脱衣所の施錠を徹底しておくことも重要です。できれば、2名以上の人員を割いて、いざ事故が起きたときに、介助をする役割の人物と応援や救急車を呼ぶ人物を決めるなど、あらかじめ役割分担を確定しておくが望ましいです。

被害者を押さえつけた際の事故に関する裁判例(大阪地判平成27年2月13日)

【事案の概要】
障害者福祉サービス事業を営む社会福祉法人の施設において、施設職員らが、興奮状態にあった施設入所者の男性をうつぶせの状態で押さえつけて死亡させた事案です。

【裁判所の判断】
裁判所は、途中で離脱した職員を除く押さえつけ行為に関与した施設職員には、お互いの押さえつけ行為の態様や男性の表情などを確認しなかった過失があり、社会福祉法人の理事長には、入所者を制止する方法についての指導やマニュアルの整備を怠った過失があるとして、上記施設職員、社会福祉法人の理事長及び社会福祉法人に対する損害賠償請求を認めました

押さえつけによる事故で事業者が責任を問われないために

押さえつけにより利用者が怪我をする事故の場合、利用者自身が興奮して、押さえつけ行為に対して強く抵抗することが予想されるため、必然的に押さえつけようとする職員らの力も強くなり、双方に怪我の恐れがあります。また、急な対応であることから、どうしても利用者の身体への配慮は疎かになりがちです。そこで、あらかじめ入所者を制止する方法について指導をしたり、マニュアル化をしておくことが必要であると考えられます。さらに、職員らが相互に呼び出しを行えるシステムを整備することで、押さえつける行為についても複数人で対応することができ、より安全かつ冷静に押さえつけ行為を行えるものといえます。

設備の瑕疵に基づく事故に関する裁判例(東京高判平成28年3月23日)

【事案の概要】
原告の父は認知症を患っていたが、被告が開設する介護老人保健施設の認知症専門棟に短期入所していたところ、2階食堂の窓から雨どいづたいに降りようとして地面に落下して死亡しました。そこで原告が、父の死亡は上記施設における安全配慮義務違反又は上記食堂の窓に係る瑕疵によるものであると主張して損害の賠償を求めた事案です。

【裁判所の判断】
裁判所は、2階食堂の窓はその設置又は保存に瑕疵があったというべきであり、ストッパーによる開放制限措置が通常有すべき安全性を欠いていたことと原告の父の死亡との間に相当因果関係があることも認められるとして、原告の請求の一部を認めました

設備の瑕疵に基づく事故で事業者が責任を問われないために

上記の裁判例からもわかるように、介護施設の設備の場合、通常の安全性の他に、利用者が高齢者であることや認知症を患ってことを前提とした安全性を備えることが必要となります。そこで、施設の設計段階からこれらの危険性に配慮するとともに、施設の運営開始後、露見した事故発生の危険性について、その度に対策を講じる必要があるといえます。このような対策を実現するためにも、利用者及びその家族に認知症や過去の事故等の聞き取りを行い、さらには職員と連携して、事故発生の危険の存在について、日々注視することが大切です。

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