典型的なケース
転倒事故について、裁判例となったケースの中で典型的なケースは以下のようなものです。尚、これは実際の裁判で争われたケースをこのホームページ用にデフォルメしたものです。
ある女性(90歳、要介護2)が、ショートステイとして、特別養護老人ホームに短期入所していました。部屋で昼寝をしていたので、1時間程度の間、ヘルパーは目を離していました。ヘルパーが目を離したすきにトイレに行ったようで、その際に、段差に足をぶつけて転倒してしまいました。
その数時間後、女性がヘルパーに「気持ち悪い」と訴えましたが、ヘルパーは市販の胃腸薬を渡し、横になっているように指示しました。
しかし、さらに1時間後、特に女性が激しく嘔吐などを繰り返したため、救急車で病院に搬送し、検査をしたところ、女性は、頭蓋骨を骨折するなどの重傷を負っていたことが判明しました。結果として女性は一命を取り留めましたが、手術の際の全身麻酔の影響で、大幅に認知症が進行してしまいました。
事故態様
まず、そもそもどのような態様の事故だったのか、が問題となります。
これが交通事故や学校内で起きた事故であれば、被害者が嘘をつかない限り、何が起きたのかが問題となることはありません。
しかし、介護施設に入所している利用者の中には、認知症を患っている方が少なくありません。また、このモデルケースのように全身麻酔の効果が切れた後に、意識を取り戻すことがなかったり、認知症を発症することも少なくありません。そのため、介護事故の場合、被害者の認識能力が乏しいときには、そもそもどのような態様の事故だったのかが不明のままになってしまう可能性が高いのです。
事業者側の責任
このモデルケースで、女性は、ヘルパーが目を離したすきにトイレに行ったようで、その際に、トイレの段差に足をぶつけて転倒したようです。トイレに段差があったこと、ヘルパーが目を離したことについて、事業者が責任を問われるか、問題となります。
さらに、このモデルケースでは、女性が気分が悪いことを訴えているのにもかかわらず、ヘルパーが市販の胃腸薬を渡すのみの対応に終始したことも問題となります。
損害賠償の額・因果関係
今回の事故後には認知症が発症または進行してしまい、意思の伝達は困難となりました。
このようなケースでは、女性が慰謝料を請求できるのか、また、認知症の発症または進行は事故によって生じたものなのか、が問題となります。
転倒事故について、事故態様が争われた裁判例、事業者側の責任が争われた裁判例、損害賠償の額や結果との因果関係が争われた裁判例について、それぞれ別のコラムで紹介していきます。