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介護事故と死亡との因果関係の有無が争われた裁判例

介護事故と因果関係

介護事故は因果関係が問題となることが多い

事業者側に賠償責任が発生していると認められるためには、義務違反と結果(損害)との間に「因果関係」がなければいなりません。民法709条でも、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、『これによって生じた』損害を賠償する責任を負う。」とされ、不法行為責任が成立するためには、義務違反と結果との間の因果関係が必要であることが規定されています。

とりわけ、介護事故において、因果関係が問題となることは極めて多いといえます。その理由は、利用者が高齢の方が多いため、義務違反により本来生ずると考えられる結果を超えて、症状が比較的重篤になって死亡に至ることもそれだけ多くなるからです。また、持病をお持ちの方が多いため、別の原因とあいまって症状が重くなり、結果的に死亡に至るケースもあることも理由の一つに挙げられます。そのような場合、一見すると、本当に事故によってそのような症状が発生したといえるのか、という点に疑問が残るので、介護事故と症状とが原因と結果の関係(因果関係)にあるといえるのかが問題となるのです。

 

「あれなければこれ無し」の関係だけでは足りない

事業者側に賠償責任が認められるためには、義務違反と結果との間に「あれ無ければこれ無し」という関係(条件関係または事実的因果関係と呼ばれています。)という関係だけでは足りません。このような関係だけで足りるとしてしまうと、ほとんど全ての介護事故で賠償責任を認める結論になってしまうからです。

たとえば、ある老人がデイサービスへの送迎中に転倒して、腰骨を骨折し、入院したところ、不運にも病院が火事にあったとしましょう。ここで、その老人が骨折で思うように動けず、逃げ遅れてしまい、残念ながらそのまま焼死したとしましょう。これは、転倒→骨折→入院→火事→死亡というプロセスを辿っているわけですが、それぞれが「あれなければこれ無し」という関係にあると言えばあるわけです。ここで、仮に「条件関係さえ認められば因果関係が肯定される」と考えてしまうと、結果的に介護事故によって死亡したとされてしまいます。

しかし、そのような結論が不合理なのは誰の目にも明らかです。

そこで、裁判では、義務違反と結果との間に「社会通念上相当」と認められるような関係がある場合にだけ,不法行為における因果関係を認められるとされています。これは、簡単に言えば、事業者側の不注意により事故が生じることや、そのような事故があればその結果(損害)が生じることが、通常は想定できるという場合にだけ不法行為における因果関係を認めようという考え方です。

このように、因果関係が有るかないかは、通常の人が事故前の状態に置かれたときに、事故後に実際に起きた経過を辿ることが予見できるかどうかが問題となります。仮にそのような経過を辿ることが予見出来なければ、相当因果関係がないとされ、予見出来れば相当因果関係があるとされるのです。

 

特に事故と結果発生との因果関係が問題となる

介護事故による損害賠償請求がなされた事案では、厳密に言えば、事業者の義務違反により事故が発生し、事故が発生したために結果(損害)が発生する、という大きく分けて2つのプロセスが存在します。そのため、①義務違反→介護事故発生、②介護事故→結果発生(死亡)という2つのプロセスそれぞれについて、相当因果関係の有無が問題となります。

もっとも、前者の、①義務違反→介護事故発生というプロセスについては、事業者側の過失の有無を判断する際に検討されることになりますので、その間の因果関係が独自に問題となることはあまりありません。つまり、義務違反により介護事故が発生することが予見できなければ、そもそも過失も認められないため、因果関係の有無が争点となることはないのです。

他方で、後者の②介護事故→結果発生(死亡)については、過失が認められるかどうかに関わらず問題となりますので、事故発生から結果発生との因果関係は、重要な争点となりえます。

 

裁判例の紹介

介護事故との死亡との因果関係を肯定した裁判例

介護事故と死亡との間の因果関係を肯定した裁判例としては、東京地裁平成15年3月20日判決があります。

これは、ある医院でデイケアを受けた患者(当時78歳)がバス送迎時に転倒骨折し、寝たきり状態になったところ、その後肺炎を発症して死亡したというものです。裁判所は、医学的な資料を参考にした上で、「本件のような事故が原因となって、最終的な死亡に至るという経過は、通常人が予見可能な経過である」と認定し、事故と死亡との間には因果関係があると認定しました。

このように、裁判所は介護事故と死亡との間の因果関係を認めましたが、この事案は、転倒して骨折した日の1か月に肺炎を発症し、さらにその3か月半後に死亡したというものですので、骨折と肺炎との発症との間の時間がかなり近接していたと言えます。また、死亡をしたのは平成12年ころであるところ、昨今の医学の発展により、肺炎が発症したとしても死亡をしないこともあるように思われます。したがって、他の、骨折から病気が発症しそれが原因で死亡に至った全てのケースで、因果関係が認められるとは限りません。

 

介護事故との死亡との因果関係を否定した裁判例

反対に、介護事故と死亡との間の因果関係を否定した裁判例としては、東京地裁平成19年4月20日判決があります。

これは、ある老人保健施設に入所していた認知症患者が骨折して褥瘡(いわゆる床ずれ)を発症し、退所後に両下肢機能障害の後遺症を発症して死亡した事案です。遺族が、死亡の原因は被告施設内における患者に対する管理及び治療を怠った点にあると主張して損害賠償を求めました。裁判所は、骨折や褥瘡につき施設側の責任を認めましたが、両下肢機能障害や死亡との間に因果関係はないなどと認定して、遺族の請求の一部しか認めませんでした。

裁判所が事故と死亡との因果関係を否定した理由として、最大のものは、医師の診断書や意見書に、両下肢機能障害の原因は脳こうそくである旨の記載されていたことです。この点から分かるとおり、裁判では、医師の診断書や意見書などの資料は因果関係の有無の判断にあたって、最大限重要視されるのです。

 

重要なのは医療記録と医学的見解

以上のように、介護事故と結果との発生に因果関係があるかどうかは、諸事情を総合的に判断する必要がありますが、特に重要なのは、診療録などの医療記録と医師の意見などの医学的見解です。

介護事故訴訟では、診療録などの医療記録は全て提出された上で、①事故によってその結果が起きることが医学上認められるのか、②事故以外の要因(持病・別原因の傷病)からその結果が発生することが医学上ありえるのか、③認められるとしてその見解は医学上確立したものなのか、などを巡って激しく争われることが多いです

したがって、因果関係の立証または反論にあたっては、主治医や協力医との連携が必須となってきます。主治医の見解を聴取したり、場合によっては他の医師に意見書などを書いてもらうことも必要となってくるでしょう。

さらに、裁判では、裁判所が選任した鑑定人(多くは医師)によって、事故によって当該結果が生じることがあるのか、鑑定をされるケースもあるので、それを視野に入れた対応が必要となります。

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