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介護事故で問題となる損害の範囲と額

介護事故で問題となる損害の範囲と額

介護事故が起きたときに、利用者は、事業者側にどのような損害を請求しうるのでしょうか。

介護事故においては、損害の範囲やその算定方法については、明確な基準が確立されていません。特に慰謝料については裁判官の裁量に委ねられている状況といえます。

とはいえ、主に以下の費目を損害として検討することになります。

介護事故で認められる損害の額についてはこちら

大きく分けて4つの費目

介護事故が起きたときに利用者が請求できる損害としては、大きく分けて以下の4つの費目が存在します。

 ①積極損害・・・・事故のため新たに支出を余儀なくされた費用(治療費など)
 ②消極損害・・・・事故のため得られなかった利益(年金収入など)
 ③慰謝料・・・・事故によって受けた精神的苦痛に対する賠償
 ④弁護士費用・・・・事故による訴訟提起のためにかかった弁護士費用

以下、それぞれについて説明いたします。

積極損害

積極損害とは、事故のため新たに支出を余儀なくされた費用をいいますが、介護事故の場合、以下のとおり、多種多様な損害が考えられます。

ただし、これらは、あくまでも実際に発生した際にのみ認められるものです。また、これらを支出したとしても、常に事業者側の賠償責任が認められるものではありません。あくまでも、相当因果関係(詳しくはこちらのコラムをご参照ください)が認められる範囲でのみ、賠償責任が認められます。

1 治療関係費

 (1)治療費
 (2)鍼灸マッサージ費用
 (3)温泉治療等
 (4)入院中の特別室使用料
 (5)症状固定後の治療費(※1)
 (6)将来の手術費・治療費(※1)

2 看護費・介護費

 (1)付き添い費用
  症状や年齢等から付添の必要性がある場合の入通院の付添費
  ご家族などの近親者は1日6500円程度。

 (2)将来介護費(または介護費用増額分)(※1)
  常時介護は1日8000円、随時介護は要介護度に応じた相当な額

3 雑費

 (1)入院雑費
  入院1日1500円程度

 (2)将来の雑費

4 通院交通費・宿泊費等

 (1)タクシーによる通院交通費
 (2)通院のためのガソリン代等
 (3)宿泊費
 (4)付添人交通費
 (5)見舞のための交通費
 (6)治療中の通勤交通費
 (7)将来の通院交通費

5 医師への謝礼

6 装具・器具等購入費

 (1)義歯,義眼,義手等
 (2)介護用品器具(※1)
  介護事故による後遺障害のために器具等の購入・リース費も、症状により必要かつ相当な範囲で認められる場合があります。
 (3)その他

7 家屋・自動車改造費・調度品購入費(※1)

介護事故による後遺障害により、自宅で生活するためには自宅を改造する必要性がある場合、症状により必要かつ相当な範囲で認められる場合があります。

8 葬儀関係費用(※2)

 (1)葬儀費・墓地墓石代
 (2)仏壇仏具購入費
 (3)遺体搬送料
 (4)遺体処置費等

9 家族の帰国費用・その他(※3)

 (1)海外からの帰国費用
 (2)渡航費用
 (3)旅行のキャンセル料
 (4)ペットの飼育費用

 (※1)は、後遺障害が残ったと認められ場合にのみ認められうるものです。
 (※2)は、死亡事故の場合にのみ認められうるものです。
 (※3)は、死亡事故や死亡に比肩しうる重大な結果が発生した場合にのみ認められるものです。

介護事故の特色として、2(2)の将来介護費や介護費の増額分が認められる傾向にあります。これは、平均余命まで、介護事故がなければ支払うべき費用と、介護事故により支払うことになった費用との差額をいいます。

消極損害

消極損害とは、事故のため得られなかった利益を言います。

介護事故の場合、利用者は通常は就労していませんので、事故によって給与を得られなかったとか、後遺障害が残ったとしても将来給与を得られる見込みがなくなったということは考えられません。

もっとも、介護サービス利用者が主婦として家事労働に従事していた場合や、死亡事故の場合には、逸失利益の有無や範囲が問題となります。

たとえば、年金収入などがある方が介護事故で死亡した場合には、余命を全うすれば得られた筈の年金収入を請求することができます。ただし、死亡しなかった場合には生活費がかかるところ、死亡すれば当然その支払いを免れるわけですから、年金収入の3割程度しか請求できません。また、本来であれば年金は一括では支給されないものですから、年金収入を消極損害として請求する際には、中間利息控除というものがされることになります。

詳しくは、コラム「年金・恩給受給者が死亡した場合の逸失利益」をご参照ください。

慰謝料

慰謝料とは、精神的苦痛に対する賠償金のことです。

介護事故を原因とした慰謝料を大きく分けると、①入通院による慰謝料、②後遺障害による慰謝料、③死亡による慰謝料があります。

①入通院による慰謝料は、介護事故により直接的に発生した痛みなどの苦痛だけでなく、入院又は通院したときの面倒、生活上の不便による苦痛に対する賠償金です。この金額は、入通院期間、通院回数、怪我の程度により変動しますが、一例を挙げると、福島地裁白河支部平成15年6月3日判決では、68日の入院(手術1回)、31日間の通院(通院1回)をしたものの、右足足筋力低下などの障害が残った事故に付き、100万円の入通院慰謝料を認めました。

②後遺障害による慰謝料とは、事故により、治療をしても回復が期待できない身体の不自由や痛みなどの神経症状または精神的障害が発生した場合に、それによる精神的な苦痛に対する賠償金です。ただし、後遺障害と認められるためには、事故前と比べて、相当程度の身体能力や精神能力が低下し、かつ、それが医学上説明できることが必要であると言われています。この金額は、後遺障害の程度により大幅に上下しますが、後遺障害が残ったと認められれば、最低でも100万円は超えるものと考えてよいでしょう。

③死亡による慰謝料とは、利用者側死亡した場合に、請求しうるものです。他界したときの年齢や事故前の健康状態によりますが、500万円を下回ることはないでしょう。

弁護士費用

介護事故訴訟においては、弁護士費用として、賠償請求額(過失相殺及び損益相殺後)の1割程度の請求を裁判所は認めてくれます。ただし、裁判前の請求ではそもそも弁護士費用を請求することはありません。また、裁判上の和解においては、弁護士費用をカットされることが多いです。

まとめ

以上のように、介護事故が起きた際に、訴訟で賠償請求できる費目の範囲は多岐にわたり、また、その算定は複雑なものです

他方で、交渉など、訴訟以外で解決する際には、訴訟での基準を用いる必要はありません。

とはいえ、交渉などが決裂した場合には、最終的には訴訟で解決をせざるを得ないことになりますので、介護事故に関する交渉をする際には、常に、訴訟になった場合に賠償請求できる金額を念頭に置いて交渉に臨む必要があります。

介護事故訴訟で請求できる費用を算定するには、弁護士による判断が不可欠です。ですから、介護事故にお困りの利用者の方や事業者の方は、一度でも弁護士に相談されることをお勧めします。

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