1 なぜ問題になるのか
民法711条は、被害者の両親や配偶者など近親者が行う損害賠償請求について、被害者の「生命を侵害」された場合のみを規定しています。
そこで、被害者が死亡に至らず傷害を負ったにとどまる場合も、近親者の慰謝料請求が認められるかが問題になります。
結論として、実務は最高裁の判例で固まっています。すなわち、被害者が「生命を害された場合にも比肩すべきかまたは右場合に比して著しく劣らない程度の精神上の苦痛を受けた」ときに限り、近親者の慰謝料請求が認められます(最判昭和33年8月5日)。
2 生命侵害に比肩するような精神的苦痛とは
上記の最高裁の基準を前提にすると、「被害者の生命侵害に比肩するような精神的苦痛」か否かが、近親者の損害賠償請求が認められる基準となります。
では、どのような場合に「被害者の生命侵害に比肩するような精神的苦痛」があると認められるのでしょうか。
裁判例の傾向を見てみると、後遺障害1級が認められている事案についてはほとんどの場合請求が認められているようです。また、2級以下の場合でも、随時介護が必要な場合には慰謝料請求が認められやすい傾向があるといえます。
認められる慰謝料の額については、本人の慰謝料額の1~2割といった場合が多いです。もっとも、慰謝料額は慰謝料の請求者が被害者の父母なのか、子供なのか、配偶者なのかでも異なってきますので、大まかな傾向が本人の慰謝料額の1~2割ということにすぎず、明確な基準ではありません。