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介護事故が起きたときの介護事業者の刑事上の責任

介護事故発生に伴う事業者の刑事上の責任

ここでは、介護事業者が介護事故発生に伴って問われる刑事上の責任について、解説します。

介護事故との関係で、事業者個人に刑事上の責任が生じることがあり得ます。事故の直接の原因が介護職員の行為にあったとしても、事業者には事故を防ぐために必要な措置を講じておくべき義務があると考えられるためです。

介護事故との関係でとりわけ成立が問題となるのは業務上過失致死傷罪(刑法211条)です。また介護事故とは少し異なりますが、介護職員による傷害罪(204条)及び傷害致死罪(205条)も問題になります。

事業者の負う責任の類型についてはこちら
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業務上過失致死傷罪

「業務上必要な注意を怠り因って人を死傷された者は、5年以下の懲役若しくは禁錮、または100万円以下の罰金に処する」(刑法211条)としています。検察で起訴されれば、刑事裁判を受けることになります。有罪となれば、犯罪者として、懲役刑や禁錮刑、罰金刑に処されることになります。

この「業務上」というのは「人が社会生活上の地位に基づいて、反復継続して行うもの」を指し、「要介護高齢者に対する介護」を仕事として行っていることは「業務」に該当します。
そして、様々な介護事故の内、職員の人為ミスによって発生した怪我や死亡事故に、介護職員個人が業務上過失致死傷罪の罪に問われることは想像に難くないかと思われます。

一方で、職員個人のミスが直接の原因であったとしても、事業者も業務上過失致死傷罪の責任を問われることがあります。

業務上過失致死傷罪の成立は、(介護事故発生の)予見可能性を前提とした結果回避義務違反により、被害者に傷害・死亡の結果が生じたといえるかで判断されます。
そうすると、事業者が被害者の傷害・死亡の結果が生じることについて予見できたにもかかわらず、これを回避する義務を怠り、被害者の傷害または死亡の結果を生じさせたといえる場合には、事業者にも業務上過失致死傷罪が成立することとなります。

この予見可能性の有無については、事業者の専門性から、一般人を基準とした予見可能性にとどまらず、より高度な予見可能性が要求されると一般的に考えられます。
また結果回避義務の有無について、通常は法令や契約等を考慮して判断されますが、事業者は介護サービスの利用者と介護に関する契約を結んでいることを踏まえれば、一般的に、利用者との関係で傷害または死亡の結果を回避すべき義務を負っているものと解されることになるでしょう。

 

業務上過失致死罪の裁判例(静岡地判平成24年4月20日)

【事案の概要】

被告人は介護老人施設に介護職員として勤務し、入所者の生活介助等の業務に従事していたものであるが、入所者Aにシャワーで湯をかけてその体を洗浄する際に、熱湯を浴びせる過失により、同人に火傷を負わせ、死亡させた事案です。

【裁判所の判断】

裁判所は、被告人が、入所者にシャワーの湯を浴びせてその体を洗浄するに際し、シャワーの湯の温度が適温であることを確認すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、湯温を十分に確認しないまま漫然と同人に高温の湯を浴びせかけた過失により同人に熱傷を負わせ、よって死亡させたと認め、業務上過失致死罪の成立を認めました。

【コメント】

このような、いわゆる介護職員の不注意でも、刑法上の責任が発生する可能性はあります。また、このような事故が発生しながら、事業者が事故予防の対策として職員の指導等を行わず、漫然と事故が起きる事態を放置した結果として、事故が再発すれば、事業者も同様の責任を負う可能性がでてくるのです。

 

傷害罪・傷害致死罪

傷害罪は「人を傷害したとき」に成立し、この「傷害」とは、一般的に人の生理的機能を害する行為を指すと考えられています。簡単にいえば、暴行行為による外傷に限らず、薬物の投与等により体内の不調を生じさせた場合なども含まれるということです。傷害致死罪は、傷害の結果、被害者が死亡した場合に成立します。過失致傷罪との違いは、成立には傷害の故意が必要とされる点です。

そうすると介護職員らの暴行により被害者が「傷害」を負った結果、これら職員に傷害罪が成立することはいうまでもありません。

加えて、介護職員らによる暴行が施設内で明らかになっていながら、事業者が対策を講じず放置し、暴行を黙認していたといえるような場合には、事業者についても傷害罪または傷害致死罪の共同正犯(60条)が成立するおそれがあります。

 

刑事責任を問われないためには

介護事故が発生した場合、多くの場合は被害者に傷害または死亡の結果が生じていることから、介護職員のみならず、事業者についても上記刑事責任の成否が問題となることになります。

そこで事業者としては、事故防止に向けた設備の充実や職員への監督・指導を徹底し、事故を未然に防ぐような措置をとっておくことが重要です。

仮に介護事故が生じてしまった場合には、事業者に具体的危険を回避すべき義務が発生していたのか、また事業者の行為により事故発生は防ぐことが可能といえるのかと争点が多岐に渡ることが予想されるため、弁護士に相談することをお勧めします。

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